第3課 バザールへ

邪視、邪視除けグッズ

南アジア地域では、人や動物が放った視線に邪悪な力が宿り、 それによって人間や物に害が引き起こされると信じられている。厄介なのは、その視線を放つ側に特別意図がなくても、羨む気持ちなどがあると対象物を傷つけてしまうと言われる点だ。インドでは特に子供が病気になったときなど、その原因が誰かの放った邪視だとされる場合がある。

邪視はほめられることによってもたらされると言われる。特に、愛らし幼い子供たちは多くの視線を浴びてしまうことになるため、子供たちはたくさんのお守りを身につけることで邪視をかわそうとしている。

腕や腰に黒い紐を結びつけたり、首にペンダントヘッドつきの黒い紐をかけた子供をよく目にする。これはイスラーム教ではターヴィーズ(तावीज़)と呼ばれる。

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本来、聖者のもとを訪れ、クラーンの聖なる一節を書いてもらい、その紙をペンダントヘッドの中に丸めて入れる。ヒンドゥー教徒は結び目をつけた黒い紐を首や腕や腰に巻き付ける。

また、ルドラークシャ(シヴァ神の目)と呼ばれるインドジュズノキの種子や、動物の牙や爪、貝、石、宝石などが巻かれる。これらカワチャ(कवच)と総称される。

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ときには、顔につけられたおおきな黒い点がお守りのかわりをする。なぜならその黒い点を見た人が、「かわいい!」と思うかわりに、「なんてみっともないの!」と思ってくれるために、邪視の危険が減るのである。

インド人は小さな子に会うと、子供の頭の上で手を回すような仕草をしてから、自分のこめかみに指の関節を曲げて押し付ける。

これは「あなたの可愛らしさに魅せられたよこしまな視線を、私の頭で代わりに受け止めます」という意味だそうだ。

邪視を放った人が特定できる場合でも、その当人を非難することは少なく、各自が邪視によって被った害を落とす努力をする。それはまるでおまじないのようでもあるが、ときには祈祷師の助けを借りて、害を取り除く。誰でもできる邪視を除く方法は、マスタードシードと塩を両手につかんで、害を受けたとされる人や物の頭の周りを回してから、それを火にくべたり、外に投げ捨てる。肩越しにチャパーティーの小片を投げる方法も一般的だ。

人々は真剣に邪視を寄せ付けないように努力する。新築中の家は特に人々の注目を集めてしまうために、さまざまな邪視除けグッズがかけられている。冬瓜をくりぬいて作った鬼の顔や、鏡、履き古したサンダルも効果があるといわれる。とにかく人の視線を集めることが重要なので、ときには珍奇なオブジェを飾るなどの工夫が凝らされている。マハーラーシュトラでよく利用されているのは、ライムの実とトウガラシを5、6本、ヴィンバという渋い実を糸でつないだものだ。これを邪視除けとして戸口や乗り物などにつけている。これは毎週土曜日に新しいものと付け替えられ、古いものは多くの邪視を含んでいるとされ、路上に捨て置かれ、道行く車や人に踏まれるままにされる。そのほか、「ボーラー(人形)」と呼ばれる黒い不気味な布製の人形も利用される。

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極端に「辛い」、「渋い」、「酸っぱい」、「苦い」ものは邪視を取り除く力があると信じられ、塩とともに邪視除けでは大活躍する。邪視と邪視除けグッズは、妬み妬まれるというストレスの多い人間関係の微妙な緩衝剤としての役割も果たしているようだ。