スキットに登場するゴケさん(Olágòkè ÀLÀMÚ)は、生粋の「イバダンっ子」でイバダン大学の出身です。イバダンはナイジェリア南西部の中心的な都市で、かつての首都であったラゴス、北部の中心都市カノに次いで3番目に人口の多い都市ですが、住人の多くはヨルバ人です。
イバダン大学は英領時代の1948年に創設された大学で、ナイジェリアで一番古く、一番権威のある総合大学です。大阪大学を「はんだい」と呼び習わすように、イバダン大学は「ユー・アイ」(U.I. : University of Ibadan)と呼ばれ、イバダン大学の学生たちは「ユー・アイ」で学んでいることを大変誇りにしています。
イバダン大学では、文学部の言語学科(Departmet of Linguistics and African Languages, Faculty of Arts)やアフリカ研究所 (Institute of African Studies)などでヨルバ語を学ぶことができますが、ヨルバの中心都市にあるイバダン大学で、さらにヨルバ語教育に力を入れたいということで、2010年に「ヨルバ語センター」(Yoruba Language Centre)が創設されました。ここでは特に、海外からの学生を受け入れ、ヨルバ語とヨルバ文化を習得させることを目指しており、さまざまなアクティヴィティやホームステイなどの体験学習も用意されています。日本からの学生も大いに受け入れたいとアピールされていますので、現地でヨルバ語を勉強してみたいという方、ぜひイバダン大学にお越しください。
<上の写真>3人のヨルバ人研究者(左から、オグンデジ教授(言語学科)、ゴケさん、オラテジュ教授(言語学科):2011年5月、両教授は阪大のシンポジウム参加のため来日。「ヨルバ語センター」のセンター長からの親書も携えて来られました。)
神田麻衣子(Maiko Kanda)
かつてイバダンは「西アフリカ最大の都市」だった。現在では、ラゴス、カノに次ぐ「ナイジェリア第三の都市」の地位に甘んじているけれど、それでも街の規模は大きい。幹線道路を車で走っていると、どこまでも市街地が続いている、そんな印象を受ける。
ここで市民の足となっているのは、バスやオカダ(okada)と呼ばれるオートバイ・タクシー。バス、といってもナイジェリアのそれは日本の中古ワゴン車で運行されている。バスの色は州ごとに決められており、イバダンのあるオヨ州では白。「路線図」なるものにお目にかかったことはなかったけれど、市内に張り巡らされたバスの路線網はかなりのものになるだろう。ただ、1路線の運行距離が比較的短いため、遠出する際には数度の乗り換えが必要になる。それでも、近距離なら10ナイラ(2012年1月現在 1ナイラ=0.48円、2006年12月当時 1ナイラ=0.88円)で行けるし、交通状況さえよければ、バスはひっきりなしにやって来るので、とても便利だ。
バスには運転手と車掌が乗車している。バス停やターミナルでバスの経由地や目的地を連呼して乗客を集めたり、運行中に車内で料金を徴収したりするのが車掌の仕事。車掌は、手際よく乗客を集めると、ワゴン車の後部座席に隙間なく客を押し込んでいく。運転手は、手際よく検問所で20ナイラ札を手渡し、滞りなく運行を続ける。
そんな市民の足が途絶えることもある。原因は「ガソリン不足」。言うまでもなくナイジェリアは産油国であり、アフリカ唯一のOPEC加盟国だ。でも、ガソリン不足は「よくあること」。
ガソリンを求めて給油所に車やバイクが押し寄せ、周辺は渋滞する。「今日、入荷されるらしい」、「売り惜しみしている」など憶測が飛び交い、給油所内は騒然とする。需要が供給を上回ってガソリン価格は急騰、それに比例してバス料金も跳ね上がる。
でもこれも一時的なこと。
しばらくすると、本当に出すものも出せなくなった給油所は休業、通りを走る車の数は目に見えて少なくなり、バスの本数も激減する。
バスがふたたび乗客をすし詰めにして「通常料金」で走り始めるまで、それほど長くはかからない。でも、これが産油国ナイジェリアの現実なのだ。ラゴスでの大規模なパイプライン爆発事故が報じられたのは、イバダンの人々がガソリンを求めて給油所をとり囲む、まさにその最中でのことだった。パイプラインから直接ガソリンを盗む窃盗団のおこぼれにあずかろうと、漏れ出したガソリンに多くの人々が群がった。そこに爆発が起き、犠牲になった人々の数は推定で500人ともいわれている[1]。新聞の一面には焼けた死体の写真。爆発の原因は不明、当局による詳しい調査もなされなかった。これもまた産油国ナイジェリアの現実。
[1] Lagos pipeline blast kills scores (BBC News; Tuesday, 26 December 2006)